上野一彦先生に聞く
エッセンシャルズ 心理アセスメントレポートの書き方 第2版

2024.02.08 インタビュー 書籍紹介


「エッセンシャルズ 心理アセスメントレポートの書き方 第2版」が2023年6月に発売されました。本コラムでは監訳者である上野一彦先生へのインタビューを通して、本書の特色などを紹介してまいります。


-- 本書はアメリカで出版されているエッセンシャルズシリーズの翻訳書です。先生には「エッセンシャルズ 心理アセスメントレポートの書き方」の初版より監訳者として携わっていただき厚く御礼申しあげます。翻訳のきっかけをお話しいただけますか

上野 私がエッセンシャルズシリーズを翻訳して出すきっかけは、本書の筆頭監訳者で現在はニューヨーク市立大学スタッテンアイランド校の准教授として教鞭をとられている染木史緒さんからの、「Alan Kaufman(アラン・カウフマン)博士の『Essentials of Assessment Report Writing』がとても勉強になる、日本で心理アセスメントに従事する人たちに是非紹介できないだろうか」という熱いメールでした。

-- 染木先生からのメールがきっかけだったのですね。アメリカではエッセンシャルズシリーズはどのように扱われているのでしょうか

上野 アメリカの心理の大学や大学院では、教科書のような扱い方をされています。心理専門家にとっては、いわゆる副読本というか、もう一つのマニュアルという位置付けで利用されています。

-- エッセンシャルズシリーズ最初の翻訳書として2008年に本書の初版が出版されましたね

上野 そうですね。初版では、翻訳にあたって日米両国の資格のあり方や差異に悩まされました。カウフマンをはじめとするエッセンシャルズシリーズの著者は成熟した心理専門家です。当時は日米の心理専門家の力にかなりの差があり、検査の利用法など必要以上に詳しく書かれているとそのことにとらわれるのではないか、アメリカで行っていることだから日本でも同じようにレポートを書いたらいいと思われるのでないかなど、気になる点が随分ありました。

-- 2023年の本書出版までの間、日本では心理アセスメントに関わる心理専門家の環境が大きく変化しました

上野 はい。日本では公認心理師という心理専門家の国家資格がスタートし、そうした現実の差などは改善されてきました。また、心理検査も進化しております。私自身もウェクスラー検査に関し、1980年頃から刊行委員の役割を担ってきましたが、アセスメントの目的も単なる判別ではなく、様々な認知能力をもった子どもに対してどのようにアプローチしたらよいかというところに焦点が移っています。

-- そういった流れもあって、本書は初版と比べると1.5倍くらいの厚さになっているのでしょうか

上野 そうなんです。ちょっとした変化だけではなく、全面的に書きなおされたようなところがあります。解説付きケースレポートにはWISC-Vなどの結果を含む事例が掲載されていますが、「この能力は言語の推理能力をはかっている」とかいう一般的なことではなく、その値に子どもがどのように達したのか、さらには、その子どもの行動特性によってどのように支援を加えていったらよいかというような、奥深い内容となっています。

上野 事例については、教育システムなど日米で法律的にも異なりますので、これは非常にベーシックであるとか、これは日本では通用しないなど、日米の違いもご理解いただければと思っております。初版と同様にできるだけ脚注として誤解のないように説明を加えています。

-- さて、タイトルにもある「アセスメント」とは、心理専門家にとってどのようなものなのでしょうか

上野 心理専門家にとって最も大切な能力であり仕事だと思っています。アセスメントの他にもコンサルテーション、カウンセリングが挙げられますが、カウフマン先生のもとで学ばれた石隈利紀先生とも、アセスメントはとても大切で奥深いものだとの話しをしています。

-- アセスメントが大切だということについてもう少しお話しいただけますか

上野 アセスメントとは、対象となる支援者を科学的にとらえるということです。WISC-Vなど、本書で紹介されているような心理検査は、場面を統制した行動観察だと思っています。行動観察には、単にその場で子どもが力を出し切っているかということだけではなく、子どもの次の指導への手がかりが隠されていることがあります。熟練した検査者は子どもの反応を見る中で、この子はどういう子か、きちんと見抜くわけです。そういう点で、行動観察は、単に検査がちゃんととれたかどうかということ以上に、たくさんの情報を与えてくれます。コンサルテーション、カウンセリングも非常に大切ですが、アセスメントの基礎力を身に付けてのコンサルテーション、カウンセリングが必要だと考えています。

-- ありがとうございます。行動観察については、本書でもその重要性や解釈、レポートへの記載について詳しく掲載されていました

上野 そうですね。私自身、1000件を超える多くのケースを取りましたが、この本を読むことで気づかされたことがたくさんあったような気がします。この本は、もっと子どもを見なさい、観察しなさい、この子どもに本当に必要な助言はなにか、それに迫ろうとしているんですね。そこまで読み取っていただけると皆さんの解釈力もぐんと上がっていくと思います。日本の国立大学の中でも、心理の学生さんを育てる中で、この本をアメリカのように教科書としてお使いになっているところがあると聞いております。公認心理師も移行期間が終了し、大学・大学院で心理学を学ばれた方が公認心理師の受験資格を得るという次のフェイズに入っています。心理専門家だけではなく心理専門家を目指す学生さんにも是非読んでいただきたい1冊です。

-- 最後に、本書を活用する際に心がけることなどをお聞かせください

上野 よい心理検査はよいユーザーによって育てられると思っています。ここでのユーザーというのは、実際にアセスメントを行う心理専門家のことです。この方達が手引書や本書のような専門書を活用して、ここが理解できないとか、ここは誤解されるかもしれないといったことがディスカッションできれば、本当にお互いが高めあっていけると思います。

-- よい心理検査はよいユーザーによって成り立つのですね

上野 はい。本書が日本の心理学界、公認心理師を中心とした有資格者のために役立つことを心から願っています。

-- 本日は「エッセンシャルズ 心理アセスメントレポートの書き方 第2版」についてお話しくださりありがとうございました

上野 一彦 先生

東京学芸大学名誉教授 学校法人旭出学園理事長

日本版WISC-V刊行委員会代表 日本版WAIS-IV刊行委員会代表

関連製品

コラム一覧

PAGE TOP